時計業界の2010年問題2020年問題とは
「ETA2010年問題」や「2020年問題」について聞いたことはありませんか。腕時計に詳しい人はともかく、言葉自体は聞いたことがあっても、その詳細については知らない人も多いのでは。ここでは、腕時計の歴史を語るうえで欠かせない「ETA2010・2020年問題」について解説します。気になる人はぜひ最後までお読みください。
ETA2010年・2020年問題のETAとは
ETAとは、スイスにある時計のムーブメント専業メーカーです。ムーブメントとは時計の動力部分のこと。自動車でいうところの、エンジンやトランスミッションを想像してもらうとわかりやすいでしょう。
スイスには有名な高級腕時計メーカーやブランドが数多くあります。ETAはスウォッチグループ製造部門の傘下にあります。1990年代には約80%以上のメーカーに搭載されるほど、時計ムーブメントの大規模シェアを誇るようになりました。
時計に限らず、製造規模が大きくなればなるほどコストが下がり、品質も安定します。ETAムーブメントは高品質で低コスト、安定的に調達でき信頼性も高いと評価されるようになりました。
しかしETAは「2006年限りでスウォッチグループ以外への供給を終了する」と宣言。ETAムーブメントを使用していた多くの時計メーカーは、猛反発します。
その後スイスの競争委員会が仲裁し、2020年まで延期されたものの、ETAムーブメントはスウォッチグループのみに提供されることとなりました。ムーブメントが入手できなければ、いくらほかの部品は自社製造しているとはいえ、腕時計は製造できません。
部品と同じように自社製造すればいいのでは?との考えも浮かぶでしょう。しかし時計のムーブメント開発には莫大な時間をコストがかかり、すべての時計製造企業が自社開発できるわけではありません。各時計メーカーにとっては青天の霹靂。このETAムーブメント供給停止のショックを「2020年問題」といいます。
ETAムーブメントの使用が問題になっていた理由
前述したように、ETAムーブメントは時計業界のシェアナンバーワンを誇ります。これまでETAは最高レベルのコストパフォーマンスで、安定的に製造・供給してきました。
各時計メーカーはETAムーブメントを安く仕入れ、これにケースやベルト、文字盤などを付帯して機械式腕時計を製造します。そして高価なブランド品として販売。多額の利益を得ていました。
おそらくETAムーブメントの仕入れコストは非常に安く、高級時計に対してETAの利潤は低かったのでしょう。良心的にムーブメントを提供するETAに対し、ブランド力で原価を遥かに超える価格を付け、高額な収益を得る時計メーカー。これでは健全なビジネスといえません。
スイスの時計メーカーはETAムーブメントに甘え、自社開発を怠り、ブランド力のみで成長してきました。結果、スイスの時計産業は正常な競争ができなくなり、業界の発展に足止めをかけることに。このままでは将来的にも衰退していくことが予想されたため、ETAは2020年を最後にムーブメントの供給を終えると発表しました。
長年、ETA社のムーブメントに頼り切ってきたスイスの時計業界。ムーブメントを安く提供しているETA社に対し、ブランドの付加価値を加え数十万、数百万円で販売する企業。スイスの時計業界がこれまで以上に切磋琢磨し発展していくには、ETAムーブメントの供給停止は致し方ない決断ともいえるでしょう。
各時計メーカーの動き
スイスの時計メーカーがムーブメントの自社開発に消極的だったのは、ETAムーブメントが安く手に入る環境だったことが原因でしょう。しかしETAムーブメントに甘んじて、自社開発を怠っていれば、いずれ衰退することが懸念されます。
ETAムーブメントに頼り切っていた時計メーカーは、大きな転換期を迎えています。今後の方向性は、自社ムーブメントを開発するか、ETAムーブメント以外を検討するかの2つに分けられるでしょう。
資本力のある大手企業は自社製ムーブメントの開発に取り組むと考えられます。ムーブメント開発には、相当な技術とコストを必要としますが、自社ムーブメントを使用した付加価値を得ることができます。新たなブランディング戦略として、高く期待できるポイントでもあります。
それに対し、自社開発が難しい企業はETA社以外のムーブメントを探さなくてはいけません。当然ETAムーブメントのようなコストは求められないでしょう。しかしセリタ社の「エボーシュ」が、一筋の光として新たな道を照らしています。
セリタ社はもともとETAの下請け企業でした。そのためETAムーブメントとの互換性もあり、これまで通りの設計でセリタムーブメントが搭載できます。現在のシェアは30%程度といわれており、多くの有名時計メーカーで採用されています。開発を重ねるごとに精度も上がり、期待の声はますます高まることでしょう。
現在は、スイスの時計メーカー各社が積極的に開発に乗り出し、よりよい製品づくりに切磋琢磨するように。より高品質な時計ムーブメントが開発されれば、消費者にとっても選択肢が増え、健全な価格で取引されるようになるでしょう。
